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2006年9月10日 (日)

てのひらのほくろ村。

毎日毎日、人は生きるために自分には合わないと分かっている仕事に身を投じ、毎晩少しずつ自分の身体の一部をそぎ落としていくのでしょうか?
少しでも自分を知るための参考になればと思い、占い本や自己啓発の本も読みました。けれど、それさえ疲れてしまったのです。
かえって、今の自分とはかけ離れたところにある児童書や絵本のページを何気なくめくってみると、心癒されたりします。
私は宮沢賢治の「注文の多い料理店」を読んでみました。
すでにこの作品の内容は小学生の頃教科書に載っていたこともあり、承知しています。
でも何かが新鮮で、何かが違っているのです。
そう、それは挿絵でした。
スズキコージの描く、サイケデリックでしかも大胆な架空の世界でした。
スズキコージは静岡県浜松市(旧浜北市)出身で、県立浜松西高校を卒業しています。
幼少の頃から絵を描くことが好きで、ゴッホの画集を食い入るように見つめ、あるいは母親につれられ山下清展に出掛けるなどして様々な芸術に触れる機会に恵まれたようです。
自身、「絵描きになったのも他にふさわしい職業がなかったから」とのこと。
代表作に「エンソくんきしゃにのる」「やまのディスコ」等があります。
スズキコージの初エッセイ集でもある「てのひらのほくろ村」では、まだ合併前の浜北市が、その昔、浜名郡浜名町小野口村と呼ばれていたころの、古き良き故郷のあふれんばかりの思い出を綴っています。

「幼い時の思い出が、ひとつでもあると、その前後左右がイモづる式に出てくるもので、まるで石を池に投げた時の波紋のごとくにわき出たのです。」

この自叙伝に触れると、なるほど、画家スズキコージはこうして誕生したのかとうなずけます。
奇抜な発想、枠にとらわれない大胆な構図、キラキラと輝くサイケデリックな宇宙。人が毎晩すり減らした身体のひとかけらひとかけらが全て揃っているのです。そのパーツを組み合わせると、みるみるうちに人はファンタジーな世界にトリップします。そういう世界がスズキコージの中には存在するのです。

「てのひらのほくろ村」にあるエピソードを一つ。
ある日、薬売りの白いヒゲのおじいさんがスズキコージの家の人に言いました。
「この子どもの右のてのひらの中央に、何万人に一人の黒ぐろとしたほくろがあるので、この子は大事に育てなさい。」と。
でもそのほくろも、現在ではウスくなってほとんど消えてしまったそうな。
それもまた、静かな時の流れを感じさせる逸話なのです。

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