« 善光寺詣で。 | トップページ | 山頭火。 »

2007年1月 4日 (木)

パイロットフィッシュ。

長い列車の旅のお供として、あるいは暇つぶしに入ったカフェで読み耽るのに持って来いの作品かもしれません。
この小説を今の私のように、一気に読み終えて、何をどう感じるのか?
ある人は、無垢であけすけな涙をこぼしてしまうかもしれない。
またある人は、ため息まじりに過去の自分と照らし合わせるかもしれない。
あるいは、陳腐で稚拙な小説であると、全く受け入れられないかもしれない。
私の場合は、やはり、一気に読み耽る場所を獲得し、その後の感想はとてもシンプルに、「うん、まぁ、おもしろいかも。」というものです(笑)
この作品のテーマは、冒頭にある二行の文章に集約されていると言っても過言ではありません。

人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。
なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである。

作者は大崎善生(おおさきよしお)で、北海道札幌市出身です。
早稲田大学卒業。
代表作に、二十九歳という若さで亡くなった村山聖の生涯を綴ったノンフィクション「聖の青春」や「将棋の子」等があります。
では、簡単にあらすじを紹介します。

主人公の山崎は、大学をあと一年足らずで卒業という自分に、漠然とした焦りを感じていた。無根拠で頼りない進路に、目的や意味を見出せないでいたのだ。
何かの中から何かを選択するという作業が苦手である山崎を、上手にサポートしてくれたのが由希子だった。
彼女は選択することに何がしかの根拠と自信を持っていて、それは結果的に正しく、そして明快だった。
そんな由希子が探し出して来た出版社に、山崎は吸い寄せられるように就職した。
そこは、アダルト雑誌の編集部だった。
その後、山崎は由希子の親友と過ちを犯してしまったことで、由希子と別れてしまう。
どんなに悔いても、由希子とはやり直すことは出来なかった。
別れて十九年ぶりに由希子から山崎のもとに電話がかかって来た。
彼女はすでに結婚していて、子供もいた。
山崎は独身だったが、年の離れた若い彼女もいて、二匹の仔犬、それに熱帯魚も飼っていた。
二人は確実に違う人生を歩んでいて、その空間を埋めるべきものは何もなかった。
ただ、二人が共に過した時間の記憶が沈んでいるに過ぎない。

この作品が表現している、出会いと別れ、過去と現在、青春の幻影、記憶の沈殿等のキーワードは、決して目新しい視点のものではなく、どうしても村上春樹の影響が否めません。
そういう意味では「二番煎じ」と評されてもいたしかたありませんが、大事なのは読後感で、最初から最後まで一気に読ませてしまうテクニックと、「あ、おもしろい」の一言がこぼれたら、概ね成功でしょう。
文章の流れが情感に溢れているとか、透明感のある繊細な文体であるとか、そういう一般的な好評をあえて避けて通ることにして、私が個人的に気に入ったセリフの一部を抜粋させていただきます。

「濡れているの?」
「ああ、いつも濡れている」
「指を入れてみたい?」
「ああ」
(中略)
「舐めてみたい?」
「ああ」
「底に何が見えるの?」
「何も見えない」
「なぜ?」
「透明だから」
「どうして?」
「バイカル湖はとてつもなく深いんだ。確かそれも世界一かな。世界一深くてそして世界一透明なんだ。だから何も見えない」

みなさんは何を想像したでしょうか?(笑)

|

« 善光寺詣で。 | トップページ | 山頭火。 »

コメント

ぷちご無沙汰でした♪

またまた厄介な(笑)
あなたのインプレを読むと読まずにいられません(^^)

申告(深刻)のこの忙しい時に誠に厄介ですぅ(笑)

さて2007年、僕は山頭火のひとことをさんとう花さんに贈りますね。
「実人生は観念よりも行動である。」
ちなみに昭和五年の日記から。

投稿: ぱち | 2007年1月 5日 (金) 11:47

おひさしぶりです。

この小説、私も少し前に読みました。

言われるように最初の二行の文章が、本当に最後まで心に残っていたのを思い出します。

悪いことしたのはふだん思い出すことないのに何かの拍子に思い出して、それがいつまでも心に尾を引いてしまうことってありますよね。昔の友だちから電話があったりしたら、よけいに良いことも嫌なことも思い出して。本当に過去はけせない。ちょっと怖いですね。

それにしても、最後はさんとう花さんにしては大胆な表現ですね。今年は、私も冒険してみようかな。(笑)

ことしもよろしくです。

投稿: 三枝 | 2007年1月 6日 (土) 06:40

出会いと別れ、過去と現在 う~ん。よ~くわかりますよ。意味深な発言ですが。

最後のフレーズは、・・・想像しちゃいました。(笑)

今年も読ませていただきまっせ!!!

投稿: 晴兵衛 | 2007年1月 7日 (日) 14:08

追伸:
私のブログにBMさせていただいて宜しいでしょうか?

投稿: 晴兵衛 | 2007年1月 7日 (日) 22:27

ぱちにくさん、いつもここ一番の時にコメントありがとうございます☆
あなたには励まされてばかりです・・・
今年もよろしくお願いしますm(__)m

投稿: さんとう花 | 2007年1月 7日 (日) 23:50

三枝さん、コメントありがとうございます☆
この作品、なかなかいいですね(笑)
なんというのか、読者のイマジネーションをかき立てるものがありますよね(#^.^#)
記憶も良いものばかりではなく、イヤな記憶も含めて自分に刻まれていくので、そこに人生の醍醐味があるのかもしれませんね・・・
私は「パイロットフィッシュ」にあこがれる反面、それにだけはなりたくないような気もしますが。(^_^;)

投稿: さんとう花 | 2007年1月 8日 (月) 00:00

晴兵衛さん、コメントありがとうございます☆
そうですか、想像しちゃいましたか(笑)
イマジネーションは人間にのみ許された快楽だと思いますので、どんどん想像しちゃって下さい!(^^)!
あの・・・ところで、BMって、なんですか?
ごめんなさい、何の略なんでしょうか??
実は、この手の用語に不慣れで・・・(^_^;)
良かったら教えてくださいね~(^_^)/~

投稿: さんとう花 | 2007年1月 8日 (月) 00:11

すみません。
ブックマークの意味です。
小ブログのリストに入れたいのですが。

投稿: 晴兵衛 | 2007年1月 8日 (月) 08:40

あ、ブックマークの略でしたか~(^^ゞ
あははは・・・(^o^)
どうぞ、どうぞ。
いつも記事をのぞいて下さってありがとうございますm(__)m

投稿: さんとう花 | 2007年1月 8日 (月) 16:12

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パイロットフィッシュ。:

« 善光寺詣で。 | トップページ | 山頭火。 »