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2007年2月 4日 (日)

薬指の標本。

私は人より独占欲が強いのかもしれません。
自分にとってそこはかとなく大切な存在をがんじがらめにしてしまうという悪癖があるのです。
それは自分でも気づかないところで無意識のうちに相手を侵食していくので、本当に性質が悪いのです。
私は全くそんなつもりがないのに相手はきっと、たぶん、なんだか私の内側に密着していて息苦しい想いをしているに違いないのです。
でも相手は私に知らず知らずのうちに侵されていることも認識しないまま、泥沼の底にはまっていくのです。
私はそれを良いことに汚れてしまった相手の身体をきれいに拭うふりをしながら、実は汚れた手で撫でているに過ぎないのです。

私は「薬指の標本」を読みました。
この作品は小川洋子の原作で、フランスで映画化されました。
作者、小川洋子は岡山市出身で、早稲田大学第一文学部文芸科を卒業しています。
1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞し、名実ともに一流の女流作家なのです。
最近では「博士の愛した数式」が映画化され、話題になりました。
では、「薬指の標本」のあらすじを紹介します。

サイダー工場で働いていた「わたし」は機械に指を挟まれて、薬指の一部を失くしてしまう。
その事故が原因でサイダーが飲めなくなり、結果として工場も辞めてしまった。
わたしは転職して標本室の事務員として勤めることにした。
標本技術士(弟子丸氏)はわたしを必要以上に大切にしてくれた。単なる事務員としてではなく、まるで標本を扱うように、誠意を持って慈しんでくれた。
それから弟子丸氏はわたしをデートに誘ってくれるようになった。
デートと言っても単に屋内の一室で、もともと浴場だったスペースのタイルの上に座って他愛もない会話を楽しむ程度のものだが。
ある日、わたしは弟子丸氏に服をはがされ、浴槽の底で抱き合った。
まるで標本にされてしまうような気分だった。
わたしは今まで一度も恋人と呼べる人と付き合ったことがなく、こういう経験は初めてのことなのだが、弟子丸氏とはどうしても離れられないと思った。
それは単に、「そばにいたい」とかいう生易しいことではなく、徹底的に彼に絡め取られていたいと思った。
自由になんてなりたくない、標本室で彼に封じ込められていたかった。
わたしは自分の薬指をもっと鮮やかで美しくあり続けるように標本にしてもらおうと思った。
そうすれば弟子丸氏の視線をいっぱいに浴びることができる。
保存液の中の薬指を凝視する彼の瞳は、他の誰のものでもない、わたしだけのものなのだから。

私は標本技術士の弟子丸氏になりたいと思いました。
バーチャルなものなんか信じなくて、そこにあるリアルな試験管の中身だけが事実なのです。
視覚を最大限に利用し、痣の一つ、ホクロの数まで記憶して、その身体を手に触れ頬を寄せ口に含み五感で感じていたいのです。
その時私はきっと相手の今ある状況とか立場なんか気にすることもなく、がんじがらめにすることができる。
あたたかな家族のもとになど返さない。
私の孤独感と寂寥感を投じ、呑み込ませて共に堕ちていくのです。

「今ではすべてが乾ききっている。一粒残らず水滴も泡も消えてしまった。ピアニストの指も、電話交換手の声も歳老いて、残ったのは僕たち二人だけだ」

でも私の指は冷静に的確に動いて、彼を乾かすことはない(笑)

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コメント

日曜日の気だるい日中に読むから読めますけど、ちょっと一人で夜中に読んだら怖いような内容ですね。

さんとう花さんがそんな嗜好があるなんてびっくりです。でも、それだけ相手のことを身も心も自分の物にしなければ済まないというのは、相手の人にとって幸せなこと?とも言えるのかもしれませんね。

カニバリズムというのでしたか、以前フランスで日本人青年がフランス人の彼女の身体を食べてしまった事件がありましたね。まさかさんとう花さんもそんな嗜好が・・・?。

私は占いによるとフッと、突然消えて無くなるという星にあると言われたことがあるんですけど。さんとう花さんみたいな人に出会ったら、ある日突然食べられて跡形もなくなっていたなんてこともあるかもしれませんね。

このブログからネットを通じて魂を吸いとられないように、取り敢えず気をつけなくては。(笑)

投稿: けい | 2007年2月 4日 (日) 17:29

けいさんいつもコメントありがとう(^o^)
この記事は少しだけ拡張して書いたので、あまり引かないで下さいね(^_-)-☆
脅かすつもりは毛頭ないんですヨ☆
でも誰かを本当に好きになってしまった時、愛してしまった時、相手をがんじがらめにして自由を奪ってしまいたいという衝動に駆られたことはありませんか?
それともがんじがらめにされてみたい方でしょうか?(笑)

投稿: さんとう花 | 2007年2月 4日 (日) 21:28

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