極楽の錠前。
うらうらほろほろ花がちる(山頭火)
今は八分咲きの桜も満開を経て、やがて散りゆくのです。
森閑と並び立つ桜の老樹は、私を稚児のように扱い、風に誘われてそのかいなに私を包み込みます。
けだるく憂鬱な春の夜は、なぜか人恋しくなるのでしょう。
むしょうに誰かと話したくなるのでしょう。
過去の優しい記憶に思いを廻らせ、自慢話の一つもしたくなってしまうのです。
最近よくK美さんと長電話をします。
K美さんとは高校時代からのマブダチで、当時から数々の思い出を共有しているのです。
社会人となってからK美さんは何人かの男性と付き合って来たようなのですが、中でも創作料理職人との別れはなかなかのもの(?)です。
「ある日突然の別れだったよ~。デート帰りの車中でケンカしちゃってさ~」
「そりゃまたどうしてなの?」
「あの人さ~悪い人じゃなかったんだけど、自慢話が多くって~」
「へ~たとえば?」
「みんなが自分の創作料理を褒めちぎるとか、自分じゃなきゃあの味は出せないとかいろいろ言うんだけど、それはおまえが評価することじゃないって言ってやったよ。仕事の評価はあくまで他人がすることであって、自分じゃないんだよ。そりゃあ他人は褒めるさ。本人を目の前に悪し様に言ったりはしないさ。ましてや板長に向かって下っ端は必死になってお世辞の一つも言うだろうしね。」
「ワォ!K美ちゃんカッコイイ!」
「武勇伝、武勇伝。ブユウデンデンデデンデン♪」
って、それが別れのきっかけだったとは(笑)
彼女の凛々しい姿(?)を想像すると、思わず同性であることを嘆きたくなるのでした。
鮮やかな青空の広がる長野の善光寺へと初詣に出掛けた際。
私とK美さんは「お戒壇巡り」を体験しました。
本堂の床下の真っ暗な闇の世界。
視界は黒一色に広がり、埋めるべき空間が何一つない異様な光景。
その通路を手探りで歩き進むのです。
私は恐怖で腰が引けてどうやっても前進できませんでした。
K美さんは私の手をしっかりと握りしめながら、
「キャー!コワーイ!」と叫び声をあげてはいるものの、なんだか足取り軽くどんどん前へ前へ行こうとするのです。
他のお客さんも押し退けて、
「あ、すみませ~ん。キャー!コワーイ!」と、かなり冷静な悲鳴(?)なのです。
私は恐怖のあまり声も出ない中、ズルズルと手を引っ張られK美さんのおかげで出口へと向かうことができました。
しかも、「あ、さんとう花さん『極楽の錠前』に触らなくちゃダメじゃん。ご利益があるって書いてあったよ。さわりな、さわりな。」
と、ぬかりない観察力。
K美さんを女にしておくのがもったいないとこの時ほど思ったことはありません。私の手を握る手が男の人のそれだったら・・・ああ、無念。
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