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2007年5月30日 (水)

あおげば尊し。

南木佳士の地味だけどしっかりとした文体とはまるで両極な重松清の作品に触れました。
これは皮肉でもなんでもなく、広く大衆に受け入れられる売れっ子作家たる所以を知ったような気になりました。
文字を追うことに苦痛を感じさせないのです。
わかり易く明瞭な表現もさることながら、時代の流れを意識した背景、設定、会話、どれを取っても申し分のない完成度の高い作品なのです。

今回読んだのは「卒業」ですが、これは『まゆみのマーチ』『あおげば尊し』『卒業』『追伸』の四編が収められています。
作者の重松清は岡山県津山市出身で、早稲田大学教育学部を卒業しています。代表作に「ナイフ」「エイジ」「ビタミンF」等があります。「ビタミンF」では直木賞を受賞しています。
『あおげば尊し』は、2004年に映画化されています。
さてそのあらすじですが・・・。

教師生活を38年間続けて来た光一の父は、末期ガンで命旦夕に迫っていた。本人の希望で在宅医療を選択したものの、在宅で最期を看取るというのは決して楽なことではなかった。
父は厳しくて冷たい教師だった。「生徒を枠に押し込み、管理して、自由を認めず、成績の良くない生徒や素行に問題のある生徒は容赦なく切り捨てる」姿勢を貫いた教師人生だった。
一方、光一も父と同じ教師(小学校)という道に進んだ。光一が担任する児童で田上康弘という問題児がいた。死体に興味があるとかで、インターネットの死体サイトをのぞいたり、動物虐待のサイトを見ては楽しんでいた。
光一は命の重さを教えるためにもどうにかしなければと、思い切って自分の父と康弘を対面させてみることにする。死をどこまで実感できるかどうかはわからない、が、人はこんなふうに死の瞬間に向かって一歩ずつ進んでいくんだ、ということぐらいは感じ取ってくれるのではなかろうかと思ったのだ。しかし・・・。

作品は驚くほどドラマチックで涙を誘うものでした。
けれどそこに重厚感はありませんでした。
「ああ、もう一度読んでみたい」
そういう気持ちは皆無でした。
引用したい言葉もなく、心に残る鮮明な感情もないのです。
あるのはドラマチックな演出と、疲労すら感じてしまう透明度の高い人間関係でした。
今さら気づいたことなのですが、実は小説の醍醐味というのは、誰もが安心して読める爽快感と娯楽性にあるのかもしれません。

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コメント

うんー、その結末が知りたくなります。殺そうとするのか、もしくは、自分も一緒に死にたいと思うようになるか、全く矯正されてしまうのか。どれでしょう。

あおげば尊し、懐かしい響きですね。先日、黒澤明監督の50周年記念で作られたという「まあだだよ」という映画を見ました。内田百間をモデルにした弟子達との交歓を描いた作品です。

その中で、あおげば尊しを歌っていて、久しぶりに聞いたのですが、良い物ですね。涙が出ます。仰ぎたい在りがたい存在を私たちは乞い求めているのかも知れません。それだけ自分が弱い存在だということなのでしょう。

光一も康弘も、その作品の中で、そんなことを実感するのでしょうか。

投稿: けい | 2007年5月31日 (木) 08:59

けいさんコメントありがとう(^o^)
この作品はどうやら頭で考えて読む類のものではなさそうです。とにかく文字を追っていけば自然とストーリーが流れ始めるのです☆
そうですね、私たちは想像以上に弱い生きものなのかもしれません。だれかに頼りたくてしかたがないのかもしれませんね。依存することが幸福につながるとは思っていなくても、だれかを頼らずにはいられないのです・・・。

投稿: さんとう花 | 2007年5月31日 (木) 18:35

なにやら難しそうな本ですね。
「卒業」といえば、「仰げば尊し」
もっと古くは、ダスティンホフマンとキャサリン・ロスの映画。カバーミュージックは、サイモン&ガーファンクルの「サウンド オブ サイレンス」古すぎましたか。多分 さんとう花さんは、ご存じないでしょうね。
キャサリン・ロスの結婚式に、ベン(ダスティン・ホフマン)が、キャサリンをうばってそのまま二人で逃げるシーンで終わります。
これもありそうでなかなか出来ないシーンです。現代人の忘れた、ほとばしる心のままに行動するベンでした。
この映画は、私の高校時代です。さんとう花さんは、生まれてません。

投稿: 晴兵衛 | 2007年5月31日 (木) 21:28

晴兵衛さんコメントありがとう(^o^)
そうですか、「卒業」というとダスティン・ホフマン出演の映画を思い浮かべるのですね☆
重松清の作品は青春の光と影、ポジティヴな姿勢に対する応援歌のような内容になっています。
爽快感あふれる読みやすい小説ですヨ(^_-)-☆
就寝前の30分ぐらいを使って軽く読むのに適しているかもしれませんね☆

投稿: さんとう花 | 2007年6月 1日 (金) 17:58

さんとう花さんの推薦図書と自薦図書がドンドン溜まるばっかりで、消化し切れません。
電車通勤や出張の時に本を読むんですが、最近老眼鏡(晴兵衛は、マセてまして38歳くらいから老眼鏡が必要でした)が合わなくなって(><)読書スピードが落ちて来ております。
でも、ドンドン推薦図書してくださいm( )m

投稿: 晴兵衛 | 2007年6月 1日 (金) 21:08

晴兵衛さん再びコメントありがとう(^o^)
老眼鏡ですか? 私もそのうちお世話になるのでしょうか・・・(^_^.)他人事ではありません(-_-;)
おすすめしたい本はいくらでもありますが、私が心の底から差し出したい一冊というのは、なかなかブログの記事ではご紹介できないものですね(^_^;)
晴兵衛さんはどうですか?
一番ベストなものをベストな形で誰かに紹介するって、どうしたら良いのでしょうか・・・?

投稿: さんとう花 | 2007年6月 1日 (金) 23:57

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