みんなの秘密。
実に十日間、読書から遠ざかっていました。
暇つぶしの読書は、得てして贅肉にはなっても骨にはならないかもしれないなぁと思いました。
BGMにジェイムズ・ブラントを流しながらうたた寝してみたり、シャガールの画集をめくってみたり、昔買い揃えたレコードのジャケットを眺めてみたり、読書に代わることはいくらでもあるということです。
読書から離れてわかったことはそのぐらい。
もともと私にとって読書なんて趣味の一つでしかなく、数あるデザートの中で最も食べ慣れたモノという感覚かもしれません。
職場の同僚たちの間で林真理子が話題を呼んでいるのです。
読書家のYさんがとにかく林真理子に傾倒していて、「みんなの秘密」という文庫本の感想を聞きたいと言い出したところから回し読みが始まりました。
女性7人中、5人は四十代、私は三十代、残り一人は二十代。驚いたのは四十代の5人全員が林真理子大絶賛!
理由は思いのほか簡単明瞭、「読み易い」「同じ目線」「エロい」というものでした。
二十代の子は皆に気を遣ってなのか、はっきりとは読後感を語らなかったのですが、印象としては「嫌悪感」を持ったような感じでした。
ちなみに私はごくごく普通におもしろかったです。
林真理子は山梨市出身で日本大学芸術学部文芸学科を卒業しています。コピーライターとして活躍ののち、作家としてデビュー。
「最終便に間に合えば」「京都まで」の二作の短篇小説で直木賞を受賞しています。
「みんなの秘密」は吉川英治文学賞を受賞しています。
この作品は連作の短篇小説という構成になっています。なので一編一編は独立した作品ではありますが、登場人物が作品ごとに交代していくような形を取っているのです。
田舎の母親が危篤との報せを受け、また、兄嫁が介護の日々を送り疲労困憊している旨を聞き、渋々実家に帰る。実の娘でありながら母親の延命ではなく、死を祈っていることに愕然とする。早くけりがついて欲しいと願う主人公は、尿瓶の中に茶色の液体がゆっくりと底の方に貯まっていくのを眺めながら、「親の死を看取ることは、自覚しながら幾つかの罪をつくることだと」知る。
主人公は拒食症を患っている。比較的軽症とは言え、心の病であることには変わりない。何人かの男性とも関係を持ち、仲間とテニスやスキーに興じ、流行の店に食事に出掛けるなど、一見楽しげで明るさに満ちた女子大生のイメージだった。
しかし、彼女には世間に知られてはならない秘密があった。
自分の恋焦がれている相手と唇を重ね、お互いの服を脱がし、相手の皮膚を感じ、それが重なった時、彼女は嬉しさのあまり泣いた。
それは、同性との禁断の恋だったからだ。
このような人間の密やかな関係を淡々と、しかも鮮明に描いた小説は、確かに女性の好奇心をくすぐります。
巧みな比喩力と言葉の使い回しは、息の長い人気作家たる秘訣であり、同性の絶大なる支持を受ける所以かもしれません。
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