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2007年7月 5日 (木)

阿弥陀堂だより。

今年もまたお盆の季節が巡って来ました。
私の両親の眠る菩提寺は伊豆にあるので、わざわざ我が家に僧侶を呼んで読経してもらうこともかないません。
猫の額ほどの庭の片隅、雑草の合い間にのぞく乾いた土の上を黒アリがせかせかと這っているのです。それはまるで働かずにはおられない、ある種の刹那的な雰囲気さえかもし出していました。
焦燥感なのかな? と思ったのですが、どうやらそれはアリの性分なのではと。
アリにはアリの生き方があるのです。でも私はそれに関して肯定も否定もしません。

私はしばらく前に読んだ南木佳士の「ダイヤモンドダスト」の作風と文体を忘れることができませんでした。言葉一つ一つが丁寧に紡ぎ出されていて、無駄な装飾がないのです。
そこはかとなく漂う人生観に押し付けがましさはなく、ただ淡々と語られる生と死は重さと厚みのある現実味を帯びていて、私を惹き付けて止まないのでした。
「阿弥陀堂だより」を読みました。
単にタイトルに惹かれてこの一冊を入手したに過ぎないのですが、素晴らしく格調高い作品でした。
さて、あらすじです。

信州の谷中村出身の孝夫は三歳の時に母を亡くし、小学三年で父が村を出て行った。一人っ子の孝夫は祖母の手で育てられた。
頭脳明晰の孝夫は私大の文学部に進学し、その後高校時代からの級友美智子と結婚する。美智子は優秀な女医で多忙を極め、小説家志望の孝夫が主夫となって彼女を支えた。
ところが美智子は妊娠三ヶ月の時、子宮内胎児死亡により手術を受ける。
その頃から彼女は神経を蝕まれ、医師として一線で働き続けることが不可能になる。
睡眠薬なしでは眠れないまでになり、食欲も落ち、通勤電車にも乗れなくなってしまったのだ。
そんな中、孝夫の小学校時代の同級生(谷中村役場勤務)から「無医村なのでぜひに」と美智子に声がかかる。彼女は二つ返事で受け入れ、信州の山奥の小さな診療所に従事することにした。
孝夫と美智子は、村人の先祖たちをお祀りする阿弥陀堂のおうめ婆さんや癌の再発と闘う明るくひたむきな小百合との出会いにより、様々なことを思い、考え、学んでいく。

この作品の何がすごいかと言うのは、まずひたむきで誠実なこと。行間から滲み出る風の音、明るい陽射し、畑の匂い、静寂なる風景。
「ダイヤモンドダスト」の時にも感じられた透明感のある世界観。
すばらしい! お見事! こんな文章が書けたらどんなに素敵だろう!
言葉遊びのない「現実のおもりをしっかりと足首に付け」た小説・・・それは生命の息吹さえ感じさせるのでした。
作中そこかしこに感じられる著者の苦悩は一転、天から射し込む一条の光となって、明るく前向きな作品に仕立てているのです。

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コメント

さんとう花さんこんばんは(^^)
僕は読んでないのですが、小説も良さそうですね。
とりあえず映画も最高ですよ!
寺尾聰さんの声はとても落ち着きます。
北林谷栄さん、田村高廣さん、香川京子さんなど、安定した大人の役者さん達にじっくりと諭されている気分になるのが心地いいです。
自然の美しさに涙が出ました。
静岡は雪は降らないようですが、僕はこの映画を見た時、癒された掛川の田舎町を思い出しました。
時間がゆっくりと流れる感じは静岡の田舎に似てる感じがします。

投稿: moo00 | 2007年7月 7日 (土) 20:54

mooOOさんコメントありがとう(^o^)
そうでした、「阿弥陀堂だより」は映画化されていましたね(^^)
mooOOさんおすすめの映画の一品でしたよね!
私も機会があればぜひ映画の方も観てみたいと思います。
草深い地方にいると都会の喧騒にあこがれたりしますが、やっぱり住むには田舎の方が心地良いかもしれませんね。掛川には8月に用事があって出掛けることになりそうです。遠州は世話好きで人当たりの良い気質の土地柄ですよね(^^)
伊豆生まれの伊豆育ちの私にも居心地の良い土地ですよ(*^^)v

投稿: さんとう花 | 2007年7月 8日 (日) 18:22

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