分け入つても。
蕭々と降る霧雨の中、私は白馬にいました。
日常の喧騒から離れて、山の息吹と風の音を聴きたくなったのです。
つづら折の山道を滑るように登って行くと、徐々に下界から遠ざかり、民家は消え、対向車と出あうこともなくなりました。
遠くにそびえる山々も霧に隠れ、そのあいまいな稜線をまるで私の想像力に委ねようとしているかのようでした。
山の斜面の牧草地に放牧されたホルスタインが、無邪気に草を食み、脇を通りかかった私の方をもの珍しそうに眺めます。
うっすらと霧に濡れた白と黒のコントラストの毛並みが、高原の空気に触れてつやつやと輝いているのです。
私は一体何から逃げようとしているのだろう?
この牛たちに尋ねてみようか?
山頂へと続くリフトは、あいにくの雨模様のせいか運休。
閑散として人の影はなく、動かないリフトはしっぽりと濡れていました。
「答えは自分で探しなさい。」
北アルプスは音も立てずに私を煙にまくのです。
肌を濡らす霧雨も、心が洗われそうな澄んだ空気も、私は全ていただいてまいりましょう。
記憶の片隅に夏の名残を感じつつ。
「色が光となる」ような青さを前に。
分け入つても分け入つても青い山(山頭火)
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