« 42歳の女子会 | トップページ | あゝ野麦峠 »

2014年5月10日 (土)

親一人子一人

私は仕事柄お年寄りと接することがあるのですが、昨日も80代の女性S子さんと、そのご子息である50代のK男さんの応対をしました。
S子さんは足腰が弱く、歩くのが難儀で、亀の歩みのようにゆっくりといらっしゃいました。
付き添いのK男さんは、そんなS子さんのことがもどかしいようで、
「おい、もたもたすんなよ! 早く、早く!」
と、小声で怒鳴っているのがこちらに筒抜けでした。
S子さんは、息子であるK男さんに「ごめんよ、ごめんよ」と、始終あやまりっぱなし。

10分ぐらいで用事が済んだため、「ご苦労さまです」と言って二人を送り出したのですが、その際も、K男さんがS子さんの手荷物をひったくるようにして、「まったく何やってんだよ!」と奪い取り、「早く来いよ!」と言ってスタスタと一人駐車場の方へと去って行ってしまったのです。
杖のコツコツという音と、S子さんの丸くなった背中を見送った時、私は言葉には表現できない複雑な思いに駆られました。
そんな様子を一緒に見ていた同僚が言うには、
「あれはまだいい方だよ。母親の用事にちゃんと付き添って車で送り迎えしてやるだけの甲斐性があるんだから」
そう言われてみると、確かに口は悪いけど、S子さんの荷物もちゃんと持ってあげていたし、S子さんにたくさん歩かせなくて済むように、先に駐車場に行って車を出して来るのかもしれないと思いました。

「ね、それより何か臭わない?」
同僚が鼻をクンクンさせながら言いました。
「え? 私、花粉症で鼻が詰まってるかも、、、」
同僚は、悪臭の根源を突き止めようと、室内をうろうろし、やがてS子さんの座っていた椅子の傍まで来ると、「臭いっ!」と悲鳴をあげました。
私も思わず近寄って確認すると、うん、確かに臭う。
「これ、失禁したんだよ、、、」
「えっ? 失禁?!」
同僚は妙に確信を持って断言するのでした。
「うちの亡くなったお婆ちゃんも、よく尿漏れしちゃって、、、おしっこ臭いニオイが部屋のそこらじゅうに漂うんだよねぇ」
同僚は雑巾を持って来ると、椅子をゴシゴシと拭き始めました。
私も慣れない他人の排泄物の臭いをどうにかしなくてはと、出入口の扉を開け放ち、換気窓も全開にして空気の入れ替えをしました。

「親一人子一人の生活だから、大変なのは分かるけど、母親の紙パンツとか尿漏れパッドなんか、ちゃんと交換するのを声がけしてやらなくちゃいけないのに、、、」
「男の人が母親の下の世話をするのは、何かと抵抗があるんでしょうね」

私は、老いた母親を邪険にするK男さん、と、最初に抱いてしまったイメージは、この場合あてはまるものではないと思い直しました。
むしろ、K男さんが、日々老いてゆく母親にどうしようもない切なさやら哀しみを深めていく中、優しい言葉をかけてやれない自分自身に対する苛立ちなのかもしれないと思うようになりました。

やっとのことで、鼻腔を刺激したイヤな臭いが消され、平常に戻りました。
それでも鼻の良い同僚は、
「まだ失禁の臭気が室内にこもっている感じ」
と言って落ち着かない様子でした。

この先、S子さんとK男さんのような親一人子一人という世帯は、さらに増えていくことでしょう。
あるいは、独居老人の世帯も珍しい環境ではなくなるでしょう。
自分で自分の下の処理ができなくなる時、私たちはどんな思いでそれを受け止めれば良いのでしょうか?
親が子どもを育てるのは当然ですが、老親をその子どもが面倒をみるのは当然と考えてはいけないのかもしれません。

私は20代ですでに両親を亡くしていますが、あの時は若さと勢いで介護をやり遂げたような気がします。(とはいえ、介護らしい介護などやらずじまいだったというのが本当のところですが。)
今私は40代。
第二次ベビーブーム世代です。
この先、間違いなく老いへと向かってゆくのです。
オギャーと生まれ出た全ての人の宿命なのです。

今、私たちは何をするべきなのか、何をしたら良いのか?
問題は山積みです。

|

« 42歳の女子会 | トップページ | あゝ野麦峠 »

コメント

こんにちは

尿漏れ…年を取ると致し方ないでしょうね

わが母も70代ですが、バスでシルバーシートに坐ると

湿っていて、アンモニア臭がするから厭だと

こぼしています

「へえ~」と他人事で聞いている私も

確実に老いてます…

投稿: 松枝 | 2014年5月16日 (金) 08:53

こんにちは! 松枝さんいつも書き込みをありがとうございます
松枝さんのお母様もお元気そうでなによりです。
私の両親はすでに亡くなっておりますが、生きていればきっと一人娘の私が介護の問題に直面していたことと思います。

こないだ親戚の家で、わずか1㎝かそこらの段差につまずいてしまいました(-_-;)
以前ならこんなことありえなかったのですが、、、
お年寄りはこんな時、転倒して骨折などするのでしょうね。
お互い、一年ごとの加齢を受け留めつつ、前向きにやっていきましょうね~(^^)/

投稿: さんとう花 | 2014年5月16日 (金) 19:42

この記事へのコメントは終了しました。

« 42歳の女子会 | トップページ | あゝ野麦峠 »