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2014年10月 5日 (日)

ありふれた老い

今年は私の親しい友人たちのお父上が、次々と亡くなられました。
仕方のないこととは分かっていながらも、寂しさとか悲しさというものは、簡単に拭えるものではありません。
自分自身の過去の記憶が嫌でもよみがえるせいなのか、そこはかとない喪失感に襲われます。
あの時、私はこうすれば良かった、ああすれば良かったと、思うことはたくさんあるのですが、すべては「後悔先に立たず」なのです。
今となってはどうすることもできません。
変更の効かない過去が、情け容赦なく、ぬえのように横たわるに過ぎません。

最近の読書の傾向は、意識しているわけでもないのですが、介護記録のような作品を読むことが多いのです。
それにしてもその内容は、ほとんどが壮絶な闘病記で、一読者として読後はもうヘトヘトになってしまうものもあります。
そんな中、唯一安心して読める介護記録があります。
それは他でもない、松下竜一の『ありふれた老い』です。

松下竜一といえば、私の大好きな社会派ノンフィクション作家で、代表作に『ルイズ 父に貰いし名は』『砦に拠る』『豆腐屋の四季』などがあります。
その松下竜一の父親(85歳)が、ある日突然倒れることで、老人問題の幕開けとなるのです。
この時、著者は54歳、妻・洋子は43歳、中学生の杏子、長男・健一は社会人で熊本に在住、二男・歓は福山市の大学生です。

著者の母親は若くして亡くなっていたため、高齢の父親の面倒をみるのは長男である竜一とその妻の務めです。
なので、寝たきりとなった老父に対し、少しも慌てず、自然のなりゆきとして介護生活に突入していきます。
しかも在宅介護という手段を選択するのです。
もちろん、下の世話やら入浴の介助などは決してキレイゴトではありません。
七転八倒の世界です。
ハンデなのは、著者自身が多発性肺のう胞症という厄介な持病を抱えていて、階段の上り下りは言うまでもなく、布団の上げ下ろしでさえ暫くは呼吸を整えねばならないほど喘いでしまうのです。
だから、身体の自由の利かない老父を動かす時などは大変。
その度に著者は肩で息をして、あげくに咳き込んでしまうというありさま。
妻と二人がかりでやったとしても同じ状況だったというので、それはそれは大変なご苦労だったことと思います。

とはいえ、ここまでの様子はどちらの家庭にもおおよそありがちな介護風景だと思うのです。
スゴイと思うのは、夫婦が共倒れにならないために、あるいは家族が一丸となって介護に向き合っていくために、結婚記念日を中心に夫婦で二泊三日の旅行に出かけていることです。
じゃあその間、老父の面倒は誰がみるのかと言えば、中学生の娘・杏子がおじいちゃんの隣の部屋に寝て、気を配るようにしているのです!

ほのぼのと感じるのは、孫が寝ているおじいちゃんに修学旅行の話をすると、財布から三千円持って行けと言うのです。
きっと小遣いにしろと言うことでしょう。
孫は、おじいちゃんの財布をあけてみると中身はからっぽ。
でも、そういうおじいちゃんの気持ちが嬉しくて、「ありがとう」とお礼を言うのです。
このくだりは、何となく心あたたまるのです。

お年寄りは、というより誰もが同じ気持ちだとは思いますが、住み慣れた我が家が一番良いのです。
死を待つだけのような、冷たく無機質な病院や、右を向いても左を向いても老人ばかりの施設になどは住みたくないのです。
ところが現実には、どの家庭でも在宅介護が可能な環境にあるわけではなく、松下竜一自身も、夫婦共倒れの危機を感じ、結局、ショートステイの利用に踏み切ります。

様々な葛藤や思いの中で日々をすごしていくわけですが、自分の置かれた状況をどこまでも前向きに捉えることは有意義なことです。
作中、著者は自身の父親が「おれたちのために病気になってくれたんじゃないか」と述べています。
父親は、居るのか居ないのかわからないような存在で、いつもひっそりと静かな人柄だったと。
だから日常生活では構わずにほうっておけば良かった。

『だが、もしこんな淡々とした関係のまま父が亡くなってゆくのであれば、やはり私たちには悔いが残っただろう。(中略)そんなふうに私たちをあとで後悔させないために、「どれ、最後に少しばかり面倒をみさせてやることにするか」と思い立って、父は足腰の立たぬ病気にかかってくれたような気がしてならない。』

介護というものを、こんなふうに優しい気持ちで捉えることができたのは、何故でしょうか?
いろんな考え方があるとは思いますが、結局のところ、介護する立場にある人の心構えなのかもしれません。

松下竜一は、「家族が追いつめられるほどに難しいケースではなく、どこの家庭にも起こりうるごくありふれたケースの一つ」であると言っていますが、それだからこそ共鳴もでき、納得のいく内容となっているのでしょう。

様々な著名人が介護に関する著書を発表されていますが、もしもどれか一冊おすすめするとしたら、私は迷わず松下竜一の『ありふれた老い』をあげさせて頂きます。
平凡なる庶民の、平凡なる日常の風景なのです。

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コメント

こんにちは

台風が過ぎたと思ったら
また来てますね

さんとう花様のお住まいの地域
大過ありませんでしたか?

僕は台風通過が通勤時間に重なり
電車が止まり大変でした…(泣)

>「家族が追いつめられるほどに
 難しいケースではなく、
 どこの家庭にも起こりうる
 ごくありふれたケースの一つ」

これからの日本で
こんなケースがたくさん起こるのだと
思います。

 我が家は子どもが風邪をひいて
寝込んだだけで大騒ぎなのに…

 できることをするしかないと思います。

投稿: 松枝 | 2014年10月 8日 (水) 13:25

松枝さん、こんばんは!
先日の台風は本当にスゴかったですね!
浜松付近に上陸したものの、我が家には直接の被害もなく、やれやれというところです。

でもまた次なる台風が接近しているようで、あいにくの連休になってしまうかもしれませんね?!
くれぐれもご用心下さい(o^-^o)

さて、介護に関しては家庭によってさまざまのようですね。
本に書いてあることがすべてではないので、その時の自分の状況に合ったやり方で向き合っていく、というところでしょうか?

でも、願わくばいつまでも足腰丈夫で元気に暮らしていくのが一番ですよね~o(*^▽^*)o

いつもながら書き込みをありがとうございます!!

投稿: さんとう花 | 2014年10月 8日 (水) 19:30

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