レモン哀歌。
純愛と夫婦愛の象徴ともされている「智恵子抄」。中でも有名なのは智恵子の死を優しく、けれど冷静に見守る光太郎の想いを綴った「レモン哀歌」です。
光太郎、すなわち高村光太郎は東京都出身で、東京芸大卒の彫刻家であり詩人でもあります。代表作に「道程」「智恵子抄」等があります。
一方、妻智恵子は福島県出身の才女で、27歳の時光太郎と婚約します。が、実際に入籍、婚姻関係(戸籍上)を結んだのは47歳になってからのことです。智恵子は、父の死と共に実家の倒産が重なって、心労からなのか、精神分裂症の兆候が出始めます。
「レモン哀歌」は、そんな智恵子が当時品川区にあったゼームス坂病院にて52歳の短い生涯を終えるに当たって、光太郎がその死の瞬間を描いた作品なのです。
私たちはこれ程までに人の死を、深い優しさと安堵感を持って看取ることができるのでしょうか?
レモン哀歌
Ode to the Lemonそんなにもあなたはレモンを待っていた
So desperately you wanted a bite of lemon
かなしく白くあかるい死の床で
In your dying bed bright with white linen
わたしの手からとった一つのレモンを
You took the lemon from me
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
And bit it firmly with your pretty teeth
トパアズいろの香気が立つ
The room was filled with refreshing lemon flavor
その数滴の天のものなるレモンの汁は
The juice of the lemon
ぱっとあなたの意識を正常にした
brightened you up
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
Your clear blue eyes slightly smiled at me
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
You took my hand with all your power
あなたの咽喉に嵐はあるが
Though your throat is severely hurt
かういふ命の瀬戸際に
On the verge of death
智恵子はもとの智恵子となり
You are the Chieko I used to know
生涯の愛を一瞬にかたむけた
You gave me all your love at that moment
それからひと時
Then for a moment
昔山頂でしたやうな深呼吸を一つして
You took a deep breath like you did on the mountain top
あなたの機関はそれなり止まった
And you stopped breathing
写真の前に挿した桜の花かげに
I put a lemon under the cherry blossoms
すずしく光るレモンを今日も置こう
placed in front of your picture, Chieko...
※英訳協力・・・恩師T先生
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